無気力人間

「めんどうくさい」が口癖の人間が書いたブログ

席は譲った方がいいよね?

電車の座席に座っている私の目の前に、右手で杖を持ち、左手でつり革を掴んでいる老爺が立っている。私は席を譲ろうと立ち上がり、「どうぞ」と手のひらで空いた座席を差して、座るように促した。しかし「いえいえ、大丈夫です」と老爺にやんわりと断られてしまった。すでに立ち上がっている私はどうしたらよいかわからず、「いえいえ、どうぞ」と言い残して、離れた扉の横へ逃げてしまった。

扉が閉まり電車が動き出す。横目で老爺の方を見てみると、私が譲った席に座ってくれていた。不自然に一人分のスペースが空いているという不気味な光景にならなかったことに安心した。

電車が駅に着き、降りる人が扉に近寄ってくる。私の最寄り駅はまだ先だったので、私は扉の端に寄り、壁にへばりつくようにして道を開けた。扉がプシューと音を立てて開くと同時に私の肩をチョンと突いてくる感触がした。顔だけ振り向くと先ほどの老爺だった。「どうもありがとうざいました」と顔の前で手を合わせていた。そして老爺は電車から降りて行った。私は複雑な気持ちになった。感謝されてうれしいという気持ちと、これでよかったのだろうかという不安だった。

私があの時、断られているのに、席を半ば強引に押し付けたせいで、老爺は席に座らなくてはならなくなった。それに電車から降りる時には、私が感謝を切望しているであろうと気を使って感謝の言葉を言わさせてしまった。私の自分勝手な善意を押し付けられた老爺はありがたかっただろうか。

ああ、考えたところで正確にはわからない。

考えるべきなのは私が優しかったかどうかだ。

優しい人とは良い人であろうとする善人のことだと思う。

私は優しい人でありたい。